唐紙の制作について

唐紙の制作は、その都度絵の具を調合し具引きする(和紙を顔料などで染めること)ところからはじまり、一枚一枚手間を惜しまず手仕事にて行います。具には花崗岩の一種の雲母や貝殻を砕いた胡粉などを用い、楮や雁皮などからつくられた和紙は越前や京都・黒谷、美濃、四国など用途にあわせたものを選びます。

和紙を染めるためには、何日もの日数を要します。滲み止めが必要なものはまずドーサ引きをするところから。その後、刷毛による顔料などの引き染め(具引き)を行いますが、染めた和紙は乾く過程において癖や反りなどが生じるので、そのままで用いることはできません。よって染めた後には、和紙の反りや巻き癖をとるための時間を要します。和紙の癖を取り除いた後に、再度、染めを重ねて求める色になるように風合いを深めていきます。例えば、襖1枚の大きさを1度染めるにあたり凡そ200回程度の熟練した刷毛捌きを必要とします。同じ色のものを10枚染めるには、2000回にわたり刷毛を動かすことになり、染めの仕上げがまばらにならないためには、それらの動作をなるべく同様に、均一に仕事することが求められます。乾燥後、癖をとり、2度染めれば4000回、さらに3度染めを重ねれば6000回の染めを行います。このような工程を経て唐長の唐紙の地色は丁寧に下地を整えて準備しております。

具引きを終えた和紙に板木から文様を写し取るには、篩(ふるい)という唐紙特有の道具を用います。絵の具を板木に直接のせるのではなく、篩を用いて板木面に柔らかくのせます。また、板木から和紙に文様を写し取るには木版画のように馬楝(バレン)などの道具は用いずに手のひらの感覚を頼りに摺り、まさに手仕事による手摺の真骨頂と言えます。
これらは唐紙特有の技法であり、他のいわゆる木版と呼ばれる類のものとの決定的な違いとなります。この唐紙の技法は昔から変わらず、貞享2年(1685年)に描かれた「和国諸職絵尽(菱川師宣画)」の唐紙師も板木と篩と共に描かれています。