唐紙を通じて世界が平和でありますように
人々の心がおだやかで幸せでありますように

唐紙に潜む日本の祈りと美を伝えたい

「日本には、八百万の神信仰があります。葉っぱが揺れ、風が通ったら風の神様を感じるとか、石ころひとつにも神様が宿る。そんなアニミスティックな心情が、日本の美意識にとって、ものすごく大事なことで、心の豊かさに繋がってきました。ある日、文字と同様に文様には呪能が宿ることに気づいたことから、雲母唐長では、唐紙の伝え方も制作の仕方も変わることになります」。

唐紙を祈りの風景として伝える。それが、唐紙師トトアキヒコが抱いている思いです。代々伝えられた板木に触れるたび、文様が語りかけてくるかのように感じるのだと言います。
「どの文様にもメッセージや物語と魂が宿り、単なるデザインという言葉ではあらわせません。そして代々守られてきた板木には、そこに潜んでいる文様の神々や、人間の祈りが宿ります。そこには先祖の力も加わり、諸々の目に見えぬ力を帯びた板木から、心を込めてうつし取ることこそが雲母唐長の唐紙だと、僕には思えるのです」。

出典:トトアキヒコ・千田愛子『人生を彩る文様』
(講談社2020年 13ページ)

未来に架けるメッセージ

A Message for the Future

気配のある唐紙…
あるとき、十一代目が呟いた言葉が、ずっと離れずにいる。
それからというもの、ぼくの手がける唐紙は必ずこのことを考えるようになる。唐紙は、単なる紙ではなく、そこに、思いや記憶の音を奏でる風が吹くのです。音なき音や風の匂い…すなわち気配、面影。未完の美ともいえる唐紙の世界は、見る人の心の中で完成するのです。

唐紙は、平安時代、文字を書く為の美しい装飾紙、料紙でした。ぼくは、このことにとても大きな意味を感じます。それは、文字ということです。漢字には文字が生まれる以前の悠遠な言葉の時代の記憶があり、文字には呪能があると白川静さんは言いました。呪能とは人間が文字にこめた原初のはたらきであり、それは数千年経て、今なお、宿ります。唐紙の美しさには三つの要素があり、和紙、色、そして、板木、これは江戸時代より代々伝わる文様を彫った木の型ですが、ここに宿る文様美、ということです。文様は、文字の起源にも繋がり、呪術的なチカラを持ちます。自然や神が宿る祈りのカタチでもあり、そこに意味を帯びて存在する芸術でもあるのです。呪能と芸術、板木に降り積る先祖たちの魂を映しとれた時にこそ、美しい唐紙は呼吸し始めるのです。果ては西の極みケルト民族まで何千年に渡り、東西世界を駆け巡ってきた文様の世界観が、変わる事なく素直に唐長に息づいています。だからこそ、今見てもモダンで、国も時代も民族も超えてゆく普遍的な美のチカラがあるのです。唐紙は平安時代に伝わった文字を書く為の料紙、ということだけでは論じ得ず、原初の文字と文様の呪能ということが、あいまって唐紙がはじまったということに、意味を感じるのです。一方は文字、一方は文様という異なる進化をとげ、唐紙というカタチで再び相和した文化、神の相和す唐紙は発展し、時を経て室内装飾に移行し、江戸時代、唐紙文化は花開くのです。

人間は、目に見えぬ何かを感じるチカラを持っています。
唐紙の美は、自然を愛でる心に繋がります。唐紙に潜むチカラにより、その琴線にふれたいのです。八百万の神を感じ、自然を愛で、多様性を受け入れ進歩してきた心豊かなる日本の心は、世界に安らぎを与えるのではないでしょうか。唐紙の美を通じて世界が平和になる…つまり唐紙には人を幸せにするチカラがあるのです。

結音…
京都から、次世代のランナーとして世界と後世にこの幸せなる唐紙の音を結んでゆきたいと、ぼくは願うのです。

2010年京都新聞130周年記念「京都創才」凛談
~未来に架けるメッセージ
唐紙師トトアキヒコ寄稿

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